人がぎっしりのショッピングモールや超高層ビルの群れ、アールデコ様式のショップハウス、シンガポールの公団住宅は、500万人が暮らす場であるば かりでなく、静かな漁村から喧騒のメトロポリスに成長したシンガポールの歩みの青写真でもあります。悲しいことに、多くの繁栄する都市と同じように、シンガポール人は足を止めて植民地時代の建築物と近代的なショッピングモールが並んで建っているような建築様式が混在している様子に見とれた りしません。

写真家のマーセル・ハイネン、ロリー・ダニエル、マーク・テオの目には、対象物が、おおかたのシンガポール人とはまったく異に 映ります。シンガポールの建築的風景を撮影する中で彼らが見いだす美には、普通は見つからない、シンガポールという国のアイデンティティ観が潜んでいま す。その彼らが『Going Places Singapore』で、シンガポールの建築物に格別の興味をもっている理由、あらゆる写真に物語を語らせる方法について語ってくれます。

マーク・テオ氏が情熱を傾けているのは、都会のサブカルチャーやエクストリームスポーツの撮影。そこに、動きに対する彼の情熱が現れています。テオ氏が撮る建築物は、変化し続けるシンガポールの風景を記録するという委託業務と個人的な試みが融合した賜物です。

シンガポールの建築物のどんなことに興味がありますか?

シンガポールの建築物のどんなことに興味がありますか?

ショップハウスやエレベーターのないアパートのような古い建物と、ショッピングモールやオフィスビルのような新しい建物が混在していなくてはなりません。史跡の指定や保護は、この新旧融合の一役を間違いなく担っています。

すぐ隣にある似たような建物ではなく、特定の建物1つを選ぶのはなぜですか?

たまたま散歩中に見かけたり車窓から見たりして選んだ建物ばかりです。マスコミの仕事で国際的なアスリートと仕事をする時にも、‘シンガポール人’であることを裏付けるにふさわしい背景を探すべきだと思っています。

特別な撮影テクニックを使っていますか?

特別な撮影テクニックを使っていますか?

たいていは、いい三脚にカメラを据えて、安定した状態で長時間露光撮影できるようにしておきます。このテクニックを使うと、動作がぼけて光の軌跡が見えるようになるので、イメージに「エネルギー」が加わります。動きの流れや空間の喧騒を感じ取れるというわけです。

どのようなストーリーを写真で伝えようとしていますか?

私が挑戦しようとしているのは、ある特定の瞬間を記録し、とらえることです。そうすれば、将来いつか、シンガポールの昔の様子を記録した形見が存在することになります。私がシンガポールの未来の世代と共有できるのは、そういうものでしょうね。

食、ファッション、ライフスタイル、集団、旅、建築物を撮るロリー・ダニエルの商業作品は、まさに多様です。シンガポールに心奪われて移住したこのオーストラリア人は、その後、シンガポールのスカイラインの虜になりました。スカイラインは彼にとって、尽きることのないチャンスに満ちたホームなのです。

シンガポールの建築物のどんなことに興味がありますか?

シンガポールの建築物のどんなことに興味がありますか?

シンガポールのスカイラインの虜です。説得力のある新鮮な写真を撮るために探り、見いだすべきアングルが無限にあります。新しい現代建築が、1929年に建てられた建物の隣にしっくり佇んでいます。写真家にとっては、さまざまな時代の建物をビジュアル的に比較したり、対比させたりして、おもしろい写真を撮るチャンスがたっぷりあるんです。

それに、シンガポールのスカイラインはヒューマンスケールです。人に肩身の狭さや孤独を感じさせてしまう上海の巨大建築物とは違います。照明システムを使って、夜の建物に生命感を与え、夕暮れのスカイラインを彩っていますね。

なぜ、特定の建物を選んで撮影するのですか?

いつも、さまざまな眺めやアングルを探し求めています。もともと、私は好奇心が強いたちなので。道路とリンケージ、多種多様な地区、交通機関――あらゆるものが一緒になっているシンガポールを知ることに魅せられています。あちこち歩いたり、自転車で走り回ったりして、この好奇心を満たしていますよ。大胆な形、一風変わったディテール、非常に空想的なコンビネーションにも魅力を感じます。

特別な撮影テクニックを使っていますか?

特別な撮影テクニックを使っていますか?

すべてのラインを垂直に保つためはもちろん、超広角写真を撮るためにもティルトシフトレンズを使っていますが、おかげで、写真にたくさんのことを収められます。このテクニックが生み出す重厚で肝の据わった写真が好きです。このレンズを使うと、建物に比較的接近してもフルサイズの超高層ビルをフレームに収められるし、パノラマ撮影もできます。

写真にニュアンスをプラスするために、ある一定の光が建物を照らすまで待ちますか?

建築写真の最も重要な部分は、おそらく、光が最も魅力を放つ時間を知ることでしょう。だから、いい写真を撮るには時間帯が肝心です。

光を待つことはほとんどありません。ある建物に光がちょうどよく当たる頃合いを予測して、現地に行きます。紺碧の空を撮るチャンスを最大限生かしたければ、夜明けの写真を撮るためにベッドから這い出るでしょうね。日没直後に7分ほど続くブルーモーメントを撮りたければ、午後7時に行きます。

ビジュアルアーティストでデザイナー、ミュージシャンのマーセル・ハイネン氏は、オランダからアジアに移住して20年以上。デザインであれ、写真であれ、音楽であれ、クリエイティブであることにハイネン氏は大いに喜びを感じています。2013年には、シンガポール国立博物館で開催された「ジ・インビジブル・フォトグラファー・フォトブックショー」の一環として、写真集『Residue』(「残余」という意味)を出版しました。

シンガポールの建築物の何に惹かれましたか?

シンガポールの建築物の何に惹かれましたか?

HDB(公共団地)の特にビジュアルにとても興味があります。どこにでもありそうなのに、どこにもない。グラフィックデザイン畑出身の私には、ブロックに用いられている色、数の多さ、パターンがとても魅力的です。

郊外を撮影することにしたのは、マリーナ・ベイ・サンズシンガポール・フライヤーが浮かぶCBDのスカイラインは十分に注目を集めていると思ったからです。自分の作品は感情に基づいて主観的なアプローチで撮影します。客観的にならず、特定の建物を選ばないようにしています。ブロックのリズムや建物の塊の構図など、被写体が伝える全体的な印象を表現することが狙いです。

独特の古びた効果を出すための写真処理にどんなテクニックを使いますか?

透明ガラスパネルとカメラのほかは何も使いません。風化した壁の前にパネルを置いて、光がいい頃合いの時に近くの建物の反射を撮影します。こうすると、古い壁の質感と建物のイメージが混ざります。二重露光やPhotoshopのレイヤー機能は無関係です。

これは私が2009年に考え出した方法で、『Residue』という一連の作品になり今も増え続けています。ほかのアジアの都市で撮った同じような作品も含まれています。このシリーズの展示会を何度も開きましたし、『Residue』シリーズの大型写真集を2013年10月に出版しました。

どのようなストーリーを写真で伝えようとしていますか?

どのようなストーリーを写真で伝えようとしていますか?

万物は流転するということ。それも、常に。シンガポールに暮らす私たちが直面していることですが、それは必ずしも悪いことではありません。願わくば、『Residue』の私の作品によって、人々が建物の重要性だけでなく、建物自体が生きていることも深く考えて、建物のかけがえのなさを分かってくれるといいですね。

写真にニュアンスを加えるために、ある種の光が建物に届くのを待ちますか?

はい。晴れた日の日没の10~15分前がいちばんいいですね。建物の輪郭を際立たせて奥行きを出してくれる、温もりのある真っ直ぐな光が好きです。