人物紹介
ヨー・シュウ・フン
旅行産業の草分け
ローカルな人脈で世界に広げるマインド
世界を探検しながら、収入も得られることを想像してください。あまりにも出来過ぎた話に聞こえますか? しかし、まさにそうした職種を自分自身のためにつくりだしたのが、ヨー・シュウ・フン氏です。
フン氏の会社「ウェブ・イン・トラベル(Web in Travel: WIT)」は、冒険を愛するコンピューターの技術者やヘビーユーザー、オンライントラベルのプロフェッショナルのためのコミュニティです。グローバルイベントには、旅の新局面を開き、再考することを目指して、旅行テクノロジー産業の著名人が集まります。

燃える情熱
故郷であるマレーシアのペナンで事件記者を務めていた当初から、遺体安置所で夜を過ごし、話を聞くために警察官を追いかけていたフン氏にとって、書くことは常に彼女の情熱でした。探求心とジャーナリズムへの愛に導かれてクアラルンプール、そして香港へと身を移した彼女は、各地で業界誌を運営します。
90年代半ば、フン氏はシンガポールにやって来ました。シンガポールで旅行新聞を発刊すればビッグになるチャンスがあると考えたのです。
フン氏はこう言っています。「当時、[シンガポール]は国際メディア環境の黎明期でした。私はアジアに関する旅行新聞をつくりたかったので、シンガポールはうってつけの拠点だったのです。」
数年後、テクノロジーの波がメディア分野にも入り込んできていることにフン氏は気付きます。インターネットが旅行にどのように影響を及ぼすか、コンテンツがどのように読まれるかを早々と見極めたフン氏は、2005年にWIT社を設立しました。
フン氏はこう語ります。「[テクノロジー]について学びたいと思っていました。「それが私のやり方です。何かを学びたければ、出かけていって学びます。」
たちまち12年がたち、2016年にWIT社がマリーナベイ・サンズで開催した最新イベントには、500名を超える参加者、カヤック最高経営責任者のスティーブ・ハフナー、中国最大の旅行ブランドCtripの最高戦略責任者ジェニー・ウーといったパネリストが集まりました。2014年、同社は米国旅行メディア会社ノーススター・トラベル・グループに買収されました。
WIT社は、インドネシア、オーストラリア、日本、ソウル、タイ、香港などで会議を主催する会社として成長しました。ちょうど昨年、英国のEU脱退をとりまく先行き不透明感にもかかわらず、離脱国民投票の数日後にWITヨーロッパがロンドン進出を果敢に果たし、自社商品に対する信頼を立証しました。WIT社の顧客には、Google、Facebook、旅行業者ウェブサイトのエクスペディア、Booking.com、トリップアドバイザーなどが顔を連ねています。

一つの全体像
ビジネスイベント産業に参入した経緯について、フン氏はこのように述べています。「実は、イベントは、コンテンツの提供方法が違うだけで、ジャーナリズムの延長にあるのです。私はコンテンツを非常に全体論的なものとして見ています。そもそも、なぜ旅をしているのかを皆に思い出してもらえるもの、旅がどのように変化してきたか、どのように変化するかに気付いてもらえるものを作りたかったんです。
一生の仕事に情熱をもっているフン氏は、人生を区切って考えていません。
フン氏はこう述べます。「どちらかといえば、人生を一つの全体像として見ています。私にとって、旅は人生であり仕事でもあります。その二つの間に壁はありません。」
「仕事で旅をするときによくすることの一つが、あえて滞在を延ばして、(その土地を知るために)旅先で数日過ごすこと。」
この仕事とも遊びともつかない行動がフン氏には功を奏し、2014年にシンガポール政府観光局が授与した「ツーリズム・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」をはじめ、いくつか表彰を受けています。
仕事を通して、フン氏はたくさんの新規事業と出会います。また、自分自身に「若い人たちと一緒に仕事をする言い訳」をするために、フン氏は旅行キャリアイベント「Tern」をスタートさせました。新規事業であれ、会社員であれ、フリーランサーであれ、旅行産業で有意義なキャリアを築きたいと願っている観光のプロフェッショナルを支援するイベントです。

地域の関係、地域のネットワーク
フン氏からシンガポールの新規事業への一言アドバイスは、「地域の文化をよく知る」こと。
「地域の関係を築き、地域のネットワークをつくってください。地域にできるだけ溶け込めば、真のグローバルなビジネスを構築できます」と、フン氏は教えてくれました。
経験から言うと、フン氏はWIT社設立前に、旅行ジャーナリストとしての年月を通して地域との広い結び付きをすでに培っていました。政府の支援も確かに助けになりました。シンガポール政府観光局は、このイベントの将来性を認めて創業当初3年の間、WIT社を支援しました。
フン氏は語ります。「まとまりのない場所と違ってシンガポールの強みは国土が狭いことなので、起業にはぴったりの場所です。しかも、ビッグになりたければビッグになれます。かなり簡単に接触したり、人脈づくりをしたりできるので、企業にはグローバルな機会が開かれています。」

情熱のたどり着く場所
フン氏が海外に出かけなくても、交際がグローバルなので実際は海外からたくさんの人が訪れます。
「たくさんのことが起こっているんですよ」と観光場所をあらかじめ決めないフン氏は言います。イベントや美術展がいつでも行われています。旅行者に同行するのは楽しいものです。ほかの人の視点でイベントを見ると改善点がわかることもありますからね。」
彼女の情熱は彼女をどんな道のりに導くのか。それについては、フン氏はためらうことなく「まだわからない」と正直に答えます。
「わかっているのは、自分が人々のアイデアを刺激するコンテンツづくりが大好きで、人々が互いに学び合う方法に影響を与えたり、ネットワークをつくれるようになったりしたいと思っていることだけ。自分の情熱の結果がどうなるのか、解き明かそうとしているところです。どこに行き着くのでしょうね。」
旅行熱に突き動かされている恐れを知らぬこの旅人にとって、発見の旅は心弾むものでしかありません。