人物紹介
ピーター・ホー
次世代イノベーションのエンジニア
シンガポールから、世界中のイノベーションの限界を押し広げる
消防について考える時、車を愛するピーター・ホー氏のことが頭に思い浮かぶことはないかもしれません。しかし、ホー氏と、ホー氏が共同創業したホープ・テクニック社は、実のところシンガポール国内外の消火活動の救いの手なのです。このシンガポール発エンジニアリング企業は、事業で大きな成功を収めてきており、緊急車両「レッド・ライノー(赤いサイ)」のこれまで4世代の設計と建造に取り組んできました。現在は、この車両をほかのアジア各都市に輸出するという次の段階に乗り出しています。
しかも、ホープ・テクニック社がソリューションを提供できる問題は消火活動に止まりません。同社の次世代イノベーションとソリューションがもつ正真正銘の多様性は、圧巻です。脳卒中患者に元の歩き方を教える外骨格から、空を飛ぶドローン、さらには宇宙往還機の試作品まで、同社は、過去11年の間に18カ国で400件のプロジェクトを納入した実績があります。
意欲と情熱
レースカーへの関心を共有していたことをきっかけに、ホー氏と大学時代同級生3人は、資本金$ 10,000をつぎ込んで、ホープ・テクニック社を2006年に設立。レースカーピット機材の開発者としてスタートするも、当初は仕事を取ることに難航しました。
「そのうち楽になるだろうと言う者はいませんでしたが、そんなふうにきつくなると言う者もいませんでしたね」と、ホー氏はジョークを口にします。
彼自身は18カ月間無給で過ごし、クレジットカードの高額請求書がたまっていきました。ある時、この共同創業者たちが決意したのは、プロジェクトを自分たちの手で確保しようということ。
「厳しく大変なことだろうと思いましたが、それが決断を反故にする理由にはなりませんでしたね。僕らは、不可能なミッションのスリルがなんだか好きなんですよ」と、ホー氏は言います。
彼を突き動かすものは何なのかと尋ねると、ホー氏は、ソリューションを考え出すのが楽しいとあっさり返してくれました。
「実はチャレンジを楽しんでいます。でも、人生ってそういうものだと思っています。僕らの能力、製品、チームに関して言えば、この仕事を発展させていく以外に何があるのかわかりません。」
シンガポールを誇る
ささやかなスタートを切ったホープ・テクニック社は、以来、大きな発展を遂げました。純粋な意欲と情熱に支えられた人間はここまで進歩できるという証しです。同社のオフィスの壁には「10の行動条件」が貼ってあります。その真上に掲げられているのは、「仕事はただの仕事ではなく、情熱とキャリアそのもの。」というモットーです。
「僕らは、情熱をもち、何をどうやってやるか選ぶゆとりに恵まれている、とても幸運な世代ですよ。そうしたあらゆる可能性を前の世代が僕らのために作ってくれたんです」と、ホー氏は語ります。
さらに、ホープ・テクニック社を「シンガポールを誇りとする」企業と表現しながら、国が提供した機会や相乗効果が、同社の成長の重要な要素だったと言い添えました。
ホープ・テクニック社が成層圏に達することを目指してエアバス社のために設計した試作機は、その一例です。実際の宇宙往還機の4分の1のサイズのこのデモ機は、海上を滑空する様子を観察するため空中でリリースされました。
エアバスがホープ・テクニック社に接触したのは、2024年までに民間機を宇宙に飛ばす計画の一環として、シンガポール経済開発庁を通して試作機を建設するためでした。
官庁とシンガポールを拠点とする企業の間のネットワークやコラボレーションが新たな機会をもたらす経緯がわかる明確な実例です。
シンガポールが自ずと拠点になったことによって、多くの企業が地域本社やグローバル本社をここに設けることを決めたと、ホー氏は言います。国外にも機会が生まれ、世界中に新しい可能性の道が開けたのはそのためだそうです。
揺るがぬ情熱
ホー氏はこう言います。「シンガポールの人脈づくりは、すばらしいですね。言葉の違いを超えてお互いに自由に話す風土があるので、コミュニケーションが取りやすいんです。」
シンガポールが主催する多数の関連展示会・コンファレンスも、人脈づくりに役立ちます。
「シンガポールが主催する展示会やコンファレンスは世界的なイベントです。こんな小さな国なのにこうしたイベントの質が非常に高いので、皆、この種のイベントを通して大海を知るようになります。Singapore Airshowは、その一例です。世界3番目の規模を誇るエアショーですが、これがシンガポールで開催されているんですよ。」
ところで、このエンジニアリング会社は遊び心を忘れて仕事ばかりしている会社ではありません。ジュロンにある工場に足を踏み入れると、受付カウンターの代わりにロッククライミングウォールが立っています。2階とロビーをつないでいるのはスチール製の巨大な滑り台です。
ホー氏の言葉です。「僕らは、自分たちが手がける仕事に情熱を注ぐチームでありたいと思っています。とても専門的な仕事ですし、自分たちの手がけていることに愛着があるなら、それは趣味でもあるんです。仕事を楽しめなければ、業界の最先端にはいられません。」

かわいい小さな点
そうは言いながらも、午前3時にようやくオフィスを出る彼は、時間があるとトアパヨやアン・モ・キオにあるローカルなホーカーセンターに軽く食べに行くそうです。もう少しリッチにいきたいときは、デンプシー・ヒルに向かいます。
ゲストがシンガポールを訪ねるときは、片側からはガーデンズ・バイ・ザ・ベイのフラワードームとスーパーツリー、もう片側からは街の景色が眺められるマリーナベイ・サンズ®の最上階に案内します。
ホー氏はこう言います。「スーパーツリーはハリウッドのSF映画にでてきそうでしょう。普通じゃありませんよね。凝縮したエネルギーや発展、完全な密度が、シンガポールのありのままの姿なんです。」
シンガポール動物園やナイトサファリも、お気に入りです。ホー氏自身がこのエリアに親愛の情を抱いているせいでしょうか。彼は、ゲストにはジュロンの工場を見学してほしいと考えています。
「シンガポールのほかの場所と比べれば、シンガポールが、個性的な街並みが広がる非常に有能な国であることは明らかです。」
ホー氏は、シンガポールの大志と彼自身の大志の間に、さまざまな類似を見ています。
ホー氏はさらに詳細に述べます。「技術系の成長企業として、当社は、当社ならではのソリューションを創り上げ、世界中に輸出します。同じように、シンガポールは地図上ではかわいらしいリトル・レッド・ドット(小さな赤い点)ですが、国境を越える巨大な影響力をもっています。シンガポールは、実際の規模よりもずっと大きくなることを目指しているんです。」